海外の事例から先進的な取り組みを知る! メンター武蔵野大学明石先生&環境NGO細谷さんのオンライン授業

2024年2月22日に、環境や脱炭素について、海外や企業などの事例を通して先進的な取り組みを知る特別講義をオンラインで開催しました。

前半はイギリスの環境NGOに所属し、現在は欧州で暮らす細谷優希さん、後半は武蔵野大学准教授明石 修先生にお話しいただきました。

お2人の体験や知識でしか語られない内容ばかりで、参加したインターンはその内容から多くの刺激を受けたようです。この記事では講義の内容を要約してお届けします!

書いた人:まるっとサステナキャンプ公式

主に「まるっとサステナキャンプ」のインターンが行っている活動について記事で発信していきます。

聞いたことはあっても実は知らない?NGOとは

登壇者:細谷 優希 
環境NGO ビジネスディベロップメントアナリスト 

細谷さんからは、NGOの役割や、ご自身のNGOでの活動、またこれまでに行ったことのある海外での事例をたくさん教えていただきました。

政府・企業・市民社会の間に立つNGOの役割

NGOはNon-governmental Organization(非政府組織)の略です。日本ではよくNPOという言葉、海外ではCSO(Civil Society Organization 市民社会組織)という言葉が使われますが、皆さんはどんなイメージがありますか? 

過激な方法で社会にメッセージを訴えかけるNGOグループやアクティビストの様子がたびたびニュースになりますがそれだけが全てではありません。

政府・企業・市民社会の三角形の狭間からどうしても生まれてしまう課題に対して、専門的な知見を活用して独立した立場から課題解決に取り組めるのがNGOの特徴です。

社会的に脆弱な立場の人たちの声を企業や政府に届けていくというのも一つの役割です。企業と違うところは、利益を分配することを目的にしていないので、持続可能な活動を意識していくことが重要になります。

私はクライメート・ボンド・イニシアチブ(Climate Bonds Initiative)というイギリスの団体に所属しています。気候変動を解決するために、これまで化石石炭燃料や温室効果ガスを多く排出する活動に流れていた資金を、クリーンで低炭素な社会を実現するために使っていくように流れを変えるサステナブルファイナンスに注力しています。政府や金融セクター、投資家への働きかけを行って、ネットゼロの達成の野心度を上げていくことを目指しています。

世界・日本で環境のために活動するNGOや団体

ほかにもいくつかの団体を紹介します。皆さんも情報を調べて興味がある活動に参加してみると、同じ興味を持つ仲間とつながることができるかもしれません。

・Market Forces

オーストラリアの環境NGO。銀行などの金融機関の運用先や投資先が化石燃料などにならないよう、気候変動への対策をしていない銀行やクレジットカード会社に働きかけるキャンペーンを行っています。

・Kpop4planet

気候変動を懸念するK-POPのファンによって作られたプラットフォーム。世界的に影響力のあるK-POPアーティストと連携し、環境負荷の高いファッション産業等について、温暖化対策をしている企業なのかどうかを調査しウェブサイトで公開したり、化石石炭燃料に関する署名を集める活動等を行っています。

The Global Cooksafe Coalition

2045年までに安全かつサステナブルな調理方法の選択を呼びかけるコアリション。これまでは世界的にガスを使った調理方法が主流でしたが、これにより子どもたちの喘息のリスクが高まります。コストもガスより電気を使った方が経済的な便益があります。そんな身近な観点で環境対策を考えるユニークなアプローチをしています。

気候訴訟ジャパン

欧州では一般の市民が石油会社に対して「私たちの未来を守らない石炭火力のビジネスをやめて再生可能エネルギーへのビジネス転換を図ってください」と裁判を起こすことがあります。日本では、環境領域での裁判は主流ではありませんが、人権を守るという観点から司法の力で対策を進めている団体です。

Fridays For Future Yokosuka

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリーの運動が起点になり、若い人たちから将来の地球を健全な形で維持していこうと始まったムーブメントです。特に、横須賀の活動が活発で、石炭・火力発電を止めるための署名活動やデモをしています。

ゼロエミ横浜

NGOではなく市民団体です。市民が一緒になって温暖化対策をリードして、温暖化の対策の様々な施策を行っていこうという活動で、署名を集めたり、マンガのコンテンツを作って発信したり、アクティブに活動している市民団体です。

海外での暮らしから見える環境活動

ここからは、細谷さんがこれまで訪れた国での取り組みを教えていただきました。

●オランダでは数十年前に交通渋滞や都市の交通環境が悪化してしまった時に自転車を優先させる政策を施行しました。

自転車の専用レーンがあり、幅も広くなっています。1人1台以上自転車を保有していて、毎日の走行距離が1人3キロ以上、全移動の27%が自転車というデータがあります。環境に良いのはもちろん、市民の健康が促進され医療費の削減にもつながります。また車の移動に関してはEVの普及が進み充電器設備が充実しています。

●欧州全体で、ヴィーガンとベジタリアンの食事やオーガニックフードが普及しています。ソイミートの選択肢も豊富かつオシャレなパッケージで誰もが食事を楽しめる工夫がなされています。スーパーでは野菜や果物も量り売りが多く、不必要に買うことがありません。環境・土壌や生物にネガティブな影響を与えない商品にオーガニックマークがついていて選びやすくなっています。

●昨年、イギリスの南の地方にあるシューマッハ・カレッジという、3H(頭と心と手)を活用し3S(土壌と魂と社会)を大事にして生きることを学べる面白いコンセプトの大学で1週間ほど勉強をしました。コミュニティの中でスモールイズビューティフルを実践し、みんなで野菜を育てて料理をしてコンポストを使って…あらゆる観点でサステナブルかつ幸せに生きることについて学ぶ大学です。ご飯は全部ヴィーガンなんです。私もあまり食べたことがなかったのですが、かなりおいしく驚きました。この食事を食べるためにまた訪れたいと思うくらいです。

●フランスにある仏教のお寺に2週間ほど滞在したこともあります。ここでは気候変動のアクティビスト、教育者、夏休み中の子どもたちなどいろんな人に向けてのマインドフルネスのリトリートが行われています。お寺なので宗教的なプログラムが多いかと思いましたが、実際は歩く、食べる、座る、家事をするなど日常生活の小さな行動をマインドフルに行って平和な心を保つ方法、自身や他者への共感について考える機会が多くありました。食前には、宗教的なお祈りではなく気候変動の一因となるような食事の方法を避けましょうというようなお祈りをするんです。お寺の敷地中にもオーガニックファームがあって、ボランティアの人たちやブラザー・シスターが地元の環境に優しい食材を使った食事を用意してくれるのです。すべてヴィーガンフードで、お味噌汁やお豆腐や海苔を使った斬新な料理もあり、こちらも本当に美味しかったです。

●フランス・オランダなどでは、給水所がたくさんあり、使い捨ての容器で飲み物を買うことを避けているような印象を受けました。

アムステルダムにある大学では、購買に給水所があるのはもちろん、1500円分程度の廃棄予定のご飯が入ったバッグが約500円ほどの安い価格で買える「ゼロウェイストバッグ」という仕組みもありました。ほかに廃棄する予定のコーヒーを、アプリを通して学生に無料配布する仕組みもありました。

●スペインのテネリフェ島にある私の友人の洋裁アトリエ兼アパレルブランドのお店では、農家に直接依頼し原料を全てオーガニックで育ててもらい、すべての洋服を手作りしています。染色も基本的に植物を使用します。

●アートや展示を通して相手の感情に訴えかけるメッセージを伝えるという手法もあります。

例えば、私たちが着ているフリースなど石油が原料のポリエステルが使われている洋服は一回洗濯するだけで何万ものマイクロプラスチックが出てしまいます。柔軟剤のキャップ一杯にも1億個のマイクロプラスチックが含まれています。排水として海に流されて、魚がそれを食べ、私たちが魚を食べるので、人間は10日間でクレジットカード2枚分のプラスチックを食べているというデータもあります。マイクロプラスチックの問題点を指摘するようなアートを展示しているお店もありました。

誰もがパッと目を引くような美しい壁画に「あなたの中に地球があり、全ての人々が共通して持っているのが地球である」と私たちの未来と地球を守る大事さ想起させるようなメッセージが書かれているなど、デザインとしても素敵なものを多く見かけます。

●オランダにある環境再生施設「De Ceuvel」はもともと造船所だった場所で土壌がとても悪い環境だったのですが、アムステルダム市のコンペで優勝した企業家とアーティストが、この場所を再生するアップサイクルの施設かつユニークで活気に満ちた創造的なコミュニティに生まれ変わらせました。廃棄された船を改修して、自給自足型のエネルギー循環を備えたオフィスや水上ホテル音楽スタジオやヨガやワークショップの施設として使えるようにして、今は農業や飲食店も営まれ経済的にも循環しています。

多くの取り組みについて紹介しましたが、印象に残った活動や始めてみたい活動はありますか?

松熊さん「私は農学部でサスナブルのことを勉強しているんですけど、アップサイクルを初めて知って、不要なものを新しい価値として生み出すのは、今後必要とされてくるのかなと思います」

小谷さん「私はアートを通した活動や、染め物のアイデアが印象深かったです。卒業研究で地域とSDGsを組み合わせたワークショップをするので、参考になりました」

畑野さん「ヴィーガン料理が大学の食堂にあるのを思い出して今度食べてみようかなとか思いました。経済を学んでいるので、環境活動と経済活動の関係をどう社会に組み込んでいくのか、仕事にするためにどうすればいいのかと考えました」

大塚さん「私の友人がFridays For Future Japanのオーガナイザーをしていることを思い出して、こういうところで知っている団体がリンクしていくんだなって思いました。社会にとって必要な活動をしていることに改めて興味が沸きました」

田中さん「川崎の海沿いで、マイクロプラスチック拾いを定期的にしていますが、一握りの砂から本当にたくさんのマイクロプラスチックが取れるのでクレジットカード2枚分という話も身近に感じられました。また、マイクロプラスチックから作ったシューズをクラウドファンディングで見て、そういったアップサイクルの商品を拡散していくのも良いことなのではないかなと思います」

サステナビリティの先にある『リジェネレーション』とは

登壇者:明石 修 

武蔵野大学准教授 博士(地球環境学)

明石先生からはサステナブルが進んだ先の概念として注目されている『リジェネレーション』についてのお話をしていただきました。

人間が暮らすほど環境が良くなる地球へ

サステナブルは基本的に、環境への悪影響をできるだけ減らして、このまま地球上で暮らしていけるようにしましょうというものです。「リ=再び生み出す」という意味がありますが、『リジェネレーション』は、悪影響を減らすだけではなく、プラスの効果を生み出していこうとする概念です。

環境問題に関わっていると、人間が常にゴミを出しますし、資源を使っているし…と、人間が悪い存在のような感じがしてしまいますよね。それとは逆に、人間が経済活動や生活をすることによって、地球にいいインパクトを与えていこうというのが『リジェネレーション』です。

森の生態系を見てみましょう。鳥が虫や木の実を食べて糞をすると、それをまた別の小さな虫や微生物が食べる。その虫などが死ぬとその体が分解されて養分になると、土が豊かになり、木が大きくなる。

まさしくこれが、生き物が持っている『リジェネレーション』、再生の力です。

本来は人間も生き物なので、そういう力を備えているはずなんです。

地球が46億年かけて作ってきた仕組みだからこそ現在一番良い方法で、決してゴミを出さない、生き物たちが無理をしていないのがすごいところです。

こういう地球の仕組みをヒントに、人間がある程度デザインをして、水や土、大気や栄養素がうまく循環をして、人間がそこに暮らせば暮らすほど豊かになっていく社会をどう作っていくかというのを小さいスケールで実際に行うのが『パーマカルチャー』です。

都会の中心、武蔵野大学屋上で『リジェネレーション』を目指す

私はこういった『リジェネレーション』を都市の中でできないかと考えて、2017年頃から武蔵野大学有明キャンパスに屋上コミュニティガーデン・屋上菜園を作っています。

大学の屋上に元々芝生はありましたが、人も入れず活用できていませんでした。

またコロナでオンライン化が進み、学生同士のつながりがすごく減ってしまったんです。そこで、生態系を復活させ、さらにコミュニティも生み出すような場所を目指しました。

菜園では、トマトやじゃがいも、枝豆などを育てて収穫し、学生と分け合っています。日当たりがいいので、ソーラークッカーという太陽熱で料理をする道具を使って野菜を食べることもあります。そうするといろんな学科の学生や留学生が集まって、交流する機会も増えました。

米作りも始めたのですが、田んぼに水を張ると生き物が自然と増えてくるんです。それがすごく面白くて。きっかけがあれば地球はどんどん豊かになっていく力があると実感します。

養蜂も行っています。蜂は果実の受粉をしてくれますし、蜂蜜も年間70キロほど取れます。それをみんなで製品にして販売しています。利益は屋上の活動の費用になっています。

コンポストも設置し、堆肥のための落ち葉は近隣の公園の掃除をしている方からいただいています。また、米ぬかも廃棄するものを米店からわけてもらって。それを混ぜると微生物にとっていい環境になって発酵が始まるんですよね。

発酵すると熱がどんどん出てきて、真冬でも60度ほどの温度が1ヶ月ぐらい続きます。この熱を使って足湯を作る計画も立てています。

学生たちはここで、農業をしたり、花を積んで遊んだり、絵を描いたり、ただゴロゴロしたりと好きなことをしています。

何をしてもいいので、初めての学生はびっくりします。よく考えると若者は、学校で「あれをしなさい、これをしなさい」と言われているんですよ。

何してもいいよって言うと、すごくのびのびとして「ここに来ると生きている感じがする」って言うんですよね。

いろんな『リジェネレーション』が起きていて、完成ではないですが、できつつあると感じています。

企業や都市での『リジェネレーション』の実例

先進的な企業では、数年前から『リジェネレーション』に取り組んでいます。

例えばアパレルブランドのパタゴニアでは、長い根を伸ばす穀物を使ったビール「ロングルート・エール」を製造、販売しています。

根は二酸化炭素を吸収し、土も豊かになっていきます。

コスメブランドのLUSHも『リジェネラティブ・バイイング』と言って、LUSHの商品の購買を通じて環境や社会にポジティブな影響を及ぼす仕組みづくりをしています。また、土を浄化する作用のある菜の花を栽培し、菜種油を作ったり、石けんを作ったりする取り組みも行っています。

最後に、私からも海外の事例をご紹介します。

スウェーデンのマルメ市のウェスタンハーバー地区は世界最大級の造船所でした。工場閉鎖に伴って、環境に配慮した都市づくりに取り組み、エネルギーは全て再生可能エネルギー100%、ゴミも循環をするような街になりました。緑もどんどん増やしていき、水も綺麗になって天然記念物のうなぎも住めるようになりました。できるだけ車の数を減らすため、徒歩や自転車が通行しやすくなっていて、人も暮らしやすくできています。こういう街づくりが川崎でもできると良いなと、個人的には思っています。

田中さん「脱炭素や環境について1年間学んできた中で一番しっくりくる考え方でした。生物の授業で環境の循環図について習った時に人間だけが入ってないのも不思議でした。そのサイクルに入れさえすれば、一番効果的な脱炭素の方法になりますし、そのサイクルに入る方法を考えるのがアクションの最後の目標で『リジェネレーション』なんだと思いました」

大塚さん「私はコミュニティガーデンが何をしてもいい場所で学生の心を癒しているというのが印象的でした。もし自分が学生だったらQOLも上がりそうだなと思いました。学生にとって素敵な空間で、なおかつ養蜂やコンポストなどで循環した社会を形成しているっていうのがすごいなと思いました」

みうさん「マイナス面やしなきゃいけないという脱炭素のイメージが大きいので、循環サイクルの中に人が入り込めるのはしっくりきました。理科の教科書とかでも、分解処理するサイクルの内に人として入り込むと面白いなと思いました」

畑野さん「どうやって環境をよくしていくかを考えた時、人の善意だけはどうしようもないので、デザインをしていくのが大事なのは、なんとなくピンときていました。でもそのデザインとは、経済活動で環境保護をすることで利益を生み出すというイメージでしたが、明石先生の屋上菜園は、人間関係まで組み込まれていて、新しい考え方で面白かったです」

小谷さん「私もコミュニティガーデンが印象に残って、人同士のコミュニティや、採れた野菜、生ゴミまで誰かの利益になっていく、循環できる生態系ができていることに驚きました」

松熊さん「私は再生という言葉を見た時に里山を連想して、里山はお手入れしないと荒れてしまうので、昔の人のように自然と共生していくことが大事だと改めて思いました。印象に残ったのが蜂蜜で利益を上げているという部分。環境活動と経済活動は一緒にできないことが多いのかなと感じていて、でもそれだと普及していかないのが現実なのかなと思っていました。経済面でも実現可能な方法として、とても良い例だと思います」

まとめ

インターンの活動もいよいよ佳境に入ってきました。これまでの成果を報告する発表会も予定されています。ぜひ最後までインターンの活動を見届けてください。